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ランボー イリュミナスィオン

II Guerre

Ⅱ 戦争

 子供の時、幾つもの絵空が、おれの光学を磨いた、あらゆる性格がおれの人相に陰影を付けた。異常現象が競い合った。 ― 今では、時間の永遠の屈折と数学の無限が、奇妙な少年時代と巨大な情愛で尊敬されて、あらゆる市民的成功を被っているおれを、この世の中で狩り立てる、 ― おれは、法によろうが力によろうが、全く予見されていない理論に基づく、ある種の「戦争」を思い描いている。
 これは音楽の一小節と同じくらい簡単だ。

フランス語テキスト

翻訳掲載:2013年2月28日


見者の光学

 2012年の12月だったか、夢にこの詩がでてきた。この詩のドライな語り口は、「人生」などと類似しているようで、『地獄での一季節』の後に書かれたと考えてきた。しかし、夢の中では、この詩は『地獄での一季節』の前にロンドンで書かれたという声が聞こえた。この詩のタイトル「戦争」の前にⅡというローマ数字が書かれている。この詩が連続するとしたら、前のⅠにあたる詩は(『イリュミナスィオン』中では)「フェアリー Fairy」となる。ただし、「フェアリー」に付けられたⅠはタイトルの下に書かれていて、タイトルの上にもⅠなのかも知れないTのような字がみえる。Ⅲに対応した詩はない。なお「フェアリー」の原稿(用紙片)にふられた番号は2で、「戦争」の原稿にふられた番号は4である。番号3の原稿は「青春時代」である。テクステュエル版の原稿集にあるクロード・ジャンコラの説明では、「戦争」は「」と同じ用紙であり、紙葉を切り離したのでは、と書かれている。
 ランボーは清書してイリュミナスィオンを書上げたが、その後、何人もの手に渡り、ふられた番号も含め、ランボーが並べた通りかどうかは分らない。それでも、筆跡、紙質、インクの色などから、いろいろと推察できる。デジタル化した今はどうなのだろうとふと考えてしまう。
 ランボーは、『地獄での一季節』の中で、後期韻文詩編を一部手直ししてよみがえらせた。後期韻文詩編の後、特に大英帝国、ロンドンに渡ってから、翌1873年の『地獄での一季節』と関連する内容の「福音書に反する散文」 ― おそらくは1873年春 ― までに、イリュミナスィオンの基本的部分が書かれ、それをよみがえらせる形で、『地獄での一季節』の後から1874年の秋か冬までに、イリュミナスィオン中で回想的な詩と大都市(「メガポリタン」)をテーマとした詩、そして全体の清書が ― 「大洪水の後」など一部は最初に仕上げた原稿のままかも知れないが ― なされたと考えるのが自然だろう。そしてランボーは1875年10月14日付けのドラエー宛の手紙にある(いくぶん後期韻文詩に似ている)「夢」という戯れ詩で、おそらくは意図的に、20歳になる直前で詩を捨ててしまう。
 この詩の始めの部分に、「光学 optique」という言葉が出てくる。「視覚」「視力」でも良いはずなのだが、やはり写真を意識した表現だと思う。この「光学」の成果が「「橋」」であり、おそらくは「マリーン Marine」であった。マリーンは海景ではなく、一般的な意味の海軍だったのではないだろうか。ランボーはロンドンでH.M.S.(大英帝国海軍軍艦 Her Majesty Ship ― 女王陛下の船)を見たのだろう。「マリーン」は韻文詩を脱して自由詩形で書かれている。
 ランボーがロンドンで新たに見たものは、ボードレールのパリとは異なる新しい産業革命後の近代産業社会とその都市、メガポリタンであり、産業・資本・軍事・生活すべての変革だった。同じことは、形が変わるにせよ、イギリスだけでなくアメリカ(ポー)も含め、マラルメにも当てはまることのような気がする。ランボーは新しい詩の形態を作り出す、その宣言書がこの詩だった。とすれば、英語のタイトルの「フェアリー Fairy」に続く詩ということも理解できる。
 ランボー1872年、初めてヴェルレーヌとイギリスに、つまり海を渡った経験を「運動」という詩にしたが、その末尾で、「若い夫婦が孤立して箱舟に乗り込み、/― これは許される古代の野蛮か?/歌を歌い、配置に着く。」と書く。配置とは、戦場での位置なのだろう。やがてヴェルレーヌとロンドンで過ごした過去を「おれ自身は、場所と方式を発見しようとあせっていた。」(放浪者)と回想する。方式 formule は、詩のスタイルと解してよいだろう。ランボーの詩は、視覚の変革だけでなく、Vie の、つまり、人生、生活、世の中、社会の変革を目指していたのだから、法(権力)とも力(武力)とも戦う道具だった。それは彼には、音楽の一章節同様、簡単だった、かもしれないが、多くの代償を必要としたように思える。

解説掲載:2013年2月28日

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