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太陽と月
訳注1)
この詩のタイトル、「一なるものを信じる… Credo in unam... 」は、ミサなどで用いられるラテン語の朗読文の最初の所を持ってきたものと考えられます。ただし、異教の思想が述べられているこの詩には、本来のキリスト教での意味合いは無いと思われます。この詩は、後に
「太陽と肉体 Soleil et Chair 」というタイトルで、少し手直しされ、また(A)〜(B)の部分を削除して、ドムニーに送られました(ドムニー詩帳の第1部)。なお、(B)以下の部分には、ほとんど手が入れられていません。
この詩は、1870年5月24日の日付で、高踏派の詩人テオドル・ド・バンヴィルに手紙で送らました。ランボーは「現代高踏派詩集」に、「x x
x(センセーション)」、「オフェーリア Ophelie 」、この「一なるものを信じる… 」の掲載を依頼しています。手紙の最後は、以下のように結ばれています。
……
「現代高踏派詩集」にこれらの詩を入れていただけませんでしょうか。
― これらの詩は詩人の信条ではありませんか?
― ぼくは無名ですが、それが問題になりますか。詩人はみな兄弟です。
これらの詩は、信じ、愛し、希望します、それがすべてです。
― ぼくの敬愛する先生、ぼくを少しばかりお引き立てください。
ぼくは、まだ若いです、手を差しのべてください…
……
残念ながら、「現代高踏派詩集」には、どの詩も掲載されませんでした。バンヴィルからの返事とランボーの反応については、いろいろと書かれていますが、その手紙は残っていません。
この詩は、ランボーの詩の中でも、早い時期に書かれ、かつ長い詩です。後に「見者の手紙」で批判の的となるミュッセの「ロラ」を始め、高踏派の詩からも、異教的な思想、ギリシャ神話のモチーフをふんだんに持って来ています。しかし、翻訳されたこの詩を読む上では、あまり参考にならないと考え、神話の神々などの簡単な解説にとどめました。
この詩は、後の「見者の手紙」の予兆のような面があります。思想の展開が、情景や叙情としての詩より前に出ています。ランボーは、後にこの詩のタイトルを「太陽と肉体」と変えましたが、ここでのタイトルの「一なるもの」とは、ヴィーナスに代表される官能的な肉体(への愛)ではないかと思います。この詩でランボーはロマン派と高踏派の要素を彼なりに合体させ、異教の思想を表明し、さらに、表現方法を示そうとした盛りだくさんの詩だと思われます。最後の月に照らされた夜の森のシーンは、この詩の幻想の舞台を語り、たとえば「イリュミナスィオン」の「大洪水の後」の夜の景色などを連想させます。
訳注2) ヴィーナス( Venus )、ローマ神話の美と愛の女神。ウェヌスとも訳されます。子供は恋愛の神キューピッド(クピドー)で、ギリシャ神話ではエロス。
訳注3) キュベレ( Cybele )、小アジアからローマに伝えられた、神々の母とされる大地の女神。ギリシャ神話の神々の母、レアとしばしば同一視されます。
訳注4) アスタルテ( Astarte )、古代フェニキアの都市ビブロスの女神で、死と再生を司ります。ギリシャ神話のアフロディーテと同一視されます。中世キリスト教では、アスタロトという男性の悪魔に姿を変えます。
訳注5) アフロディテ( Aphrodite )、ギリシャ神話の美と愛の女神。多産、豊饒の女神でもあり、エロスの母とされ、ローマ神話ではヴィーナスとなります。
訳注6) キリストのこと。
訳注7) オリンポス( Olympe )、ギリシャ神話の神々が山上に住んだギリシャの山の名前。
訳注8) この「羊飼い」は、預言者の意味ですが、ここでは、キリストを暗示しています。
訳注9) 原詩の Kallipyge は、アフロディテ(ヴィーナス)を形容する言葉で、「美しいお尻を持った」という意味です。
訳注10) アリアドネ( Ariadne )、クレタ島の王女。実弟の牛頭の怪物ミノタウロスの退治をするテセウスに恋をし、彼の迷宮脱出を助けます(アリアドネの糸)。後、テセウスに捨てられ、バッカス(ディオニュソス)の妻となります。
訳注11) テセウス( Thesee )、アテネの王子、アリアドネの助けを得てミノタウロスを退治するが、アリアドネを捨てて、アテネに帰港しま。そのとき、黒い帆を掲げていたので、王子が死んだと思った王は自殺します。
訳注12) リジオス( Lysios )、ディオニュソス、酒神バッカスのこと。
訳注13) フィリジア( Phrygie )、古代小アジア北西部の国。
訳注14) ゼウス( Zeus )、ギリシャ神話の最高神、ローマ神話ではジュピター。さまざまな姿に変身して、女性と交わる好色な神でもあります。
訳注15) ユウロペ( Europe )フェニキアの王女、ゼウスと交わり、クレタ島の王、ミノスを産みます。ヨーロッパの語源。
訳注16) レダ( Leda )スパルタ王妃、ゼウスが白鳥に姿を変え近づき、卵を産ませます。
訳注17) 白鳥( cygne )、ここでは、ゼウスが変身した白鳥の意味で使われています。大文字の場合、白鳥座、他の神話の白鳥などの意味もあります。
訳注18) キプロス( Cypris )、アフロディテの別名。
訳注19) ヘラクレス( Heracles )、ゼウスがアンフィトリオンの妻に産ませた子供。剛力でライオンを素手で退治し、その毛皮をまといます。
訳注20) ドリヤード( Dryade )、森(樫の木)のニンフ。
訳注21) セレーネ( Selene )、月の女神、ローマ神話のディアナと同一視されています。
訳注22) エンデュミヨン( Endymion )、永遠の美しさを保つために、永遠の眠りについたとされる羊飼いの美少年。
訳注23) ニンフ( Nymphe )、女神と女性の中間の存在で、美しい女性の姿をした精霊。神話や絵画では、泉に複数のニンフが描かれるが、ランボーは単数で泉の精霊を表しています。
訳注24) 鷽(ウソ bouvreuil )は、アトリ科の鳥でスズメより少し大きく、フィーフィーと口笛に似た声で鳴きます。春、花のつぼみを食い荒らします。ランボーがここでウソを登場させた意図は解りません。
訳読掲載:2003年3月31日
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