ヴェルレーヌ
ひとけの無い寒々とした古びた庭園で、
人影がふたつ、通り過ぎた。
目は死に、唇はたるみ、
会話がとぎれとぎれに聞こえてくる。
ひとけの無い寒々とした古びた庭園で、
幽霊がふたり、昔を偲ぶ。
――ぼくたちの歓びを覚えているかい?
――どうしてあなたは、そんなことを思い出させたいの?
――ぼくの名前を聞くだけで、君の心はときめくかい?
ぼくの魂をいつも夢見るかい? ――いいえ。
――ああ、ぼくたちのキスの
至福の晴れやかな日々よ! ――そうね。
――空は青く、希望は大きく!
――希望は逃げ去ったわ、暗い空の方に。
そしてふたりはカラス麦の茂みの中へ歩いていった、
夜だけがふたりの会話を聞いていた。
翻訳者のひとりごと
この詩「センチメンタルな会話 Colloque sentimental 」は1869年に出版されたヴェルレーヌの詩集「艶なる宴 Fêtes Galantes 」の最後に位置する詩です。いわば「宴」の結末、お話の締めくくりと言ったところでしょうか。タイトルの「艶なる宴」は、印象派の絵画などで、庭園のなかに集い、食事をしたり、戯れ合ったりしているブルジョワ男女の絵があります。あのイメージが私にはこの詩集のタイトルに一番近く思えます。そして、この詩はその締めくくりというわけです。
ランボーは1870年8月に、イザンバール先生にあてた手紙の中でこの詩集を持っていると書いています。
2001年12月に、ランボーとヴェルレーヌのパフォーマンス「 Les Anges 」を上演したときに、ヴェルレーヌ役の勝(すぐれ)君がアンコールの演目として、この詩をフランス語朗読しました。そのときに参考として私が翻訳したものです。口語的な表現と、さめた女性としつこい男性の組み合わせが、今風で面白いと思いました。
翻訳・解読:門司 邦雄
掲載:2002年4月26日
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