ヴェルレーヌ
ねえ? 私たちの喜びを妬む
愚かな人や意地悪な人がいても、
誇りを持って、いつも大らかにしていませんか。
ねえ? 無視されても、詮索されても、気にせずに、
希望の微笑む慎ましい道を
楽しく、ゆっくり歩いていきませんか。
暗い林の中にいるように、この愛の中にひっそりと、
私たちふたりの心は、おだやかな優しさにつつまれて、
夕暮れに歌うナイチンゲールになりましょう。
世間が、私たちに辛くても優しくても、
私たちを助けてくれるかしら? 私たちを
ほめることもいじめることも思いのままですもの。
最も強く、最も愛しい絆を結び、
さらにダイヤモンドの鎧に身を包み、
私たちは誰にでも微笑み、何者をも恐れません。
私たちの「運命」を心配せずに、
足並みそろえ、腕を組んで、
穢れなく愛し合う子供の心で
歩いていきませんか?
この詩は1870年6月に印刷されたヴェルレーヌの詩集「よき歌」の X VII (17番)です。実際にこの詩が書かれたのは1869年の7月とされています。この詩の「私たち」はヴェルレーヌと婚約者のマチルドであり、1870年8月に二人は結婚し、パリのアパルトマンに入居します。マチルドはランボーより1歳年上(1853年4月生)ですが、この若い婚約者を迎える詩人ヴェルレーヌの気取りが感じられる詩です。
「ねえ?」と訳した部分は、原文では N'est-ce pas? で、文章の末尾につけて疑問文にするときに用いられます。英語の Isn't it? にあたる言葉です。口語を使って、親しさを表した表現なので、「ねえ? …ませんか。」と訳しました。
「暗い林」は「黒い森」と訳すこともできますが、重くなりすぎると考え、「暗い林」と訳しました。
翻訳・解読:門司 邦雄
掲載:2002年4月26日
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