イリュミナスィオン

Illuminations

  • 「ノアの大洪水」の後 - Après le Déluge
    「ノアの大洪水」が、また起るという予感が鎮まったとたん、臆病者の野ウサギは、イワオウギと揺れている釣鐘草の中で立ち止まり、クモの巣越しに、虹に…
  • 少年時代 - Enfance
    黄色の髪をなびかせた黒い目のこの偶像、両親も取巻きもなく、おとぎ話よりも気高いメキシコとフランドルの混血児;彼の領土は、船も通えぬ荒波を越…
  • 小話 - Conte
    昔々、ある「王様」が低俗な施しを行きわたらせることばかりに努めてきたことに立腹していました。彼は驚くべき愛の革命を予見していました。そして、宮廷…
  • 客寄せ道化 - Parade
    えらくがっしりした道化たちだ。たくさんの奴らが君たちの社会を食い物にしてきた。君たちの意識に関する奴らの輝かしい能力と経験を活用しようとあせっ…
  • 古代美術 - Antique
    牧神の優美な息子よ! 小さな花々とブドウやスグリの実に飾られたおまえの額のそばで、おまえの眼、精巧な玉がうごめく。酒の澱が茶色に染み付いたおま…
  • 美しくあること - Being Beauteous
    雪の前に背の高い「美の存在」。死の喘ぎと鈍い音楽の輪が、このあがめられた肉体を亡霊のように立ち上がらせ、膨らませ、震わせる。緋色と黒の傷口がすば…
  • 人生 - Vies
    おお、聖地の大道、寺院の境内! おれに「箴言の書」を説いてくれたバラモン僧はどうなったのか? あの時、あの場所に居た、婆さんたちさえ今でも見える…
  • 出発 - Départ
    見飽きた。あの幻はあらゆる空気に見つかった。
    聞き飽きた。町のざわめき、夜も、昼も、いつも。…
  • 王権 - Royauté
    ある晴れた朝、たいへんおとなしい人民の国で、立派な男と女が国の広場で叫んでいた。"諸君、私はこの人を王妃にしたい!" "私は王妃になりたい!" 女は笑い…
  • ある思想に - À une Raison
    君の指の太鼓の一打ちで、全ての音は解き放たれ、新しいハーモニーが始まる。
    君の一歩で、新しい人々は決起し、前進する。…
  • 陶酔の午前 - Matinée d'ivresse
    おお、「おれ」の善! おお、「おれ」の美! おれが決してよろめかない凶暴な軍楽! 夢幻の拷問台! 前代未聞の作品とすばらしい肉体のために、始めて…
  • フラーズ - Phrases
    この世が、私たちのびっくりした4つの瞳のためのたったひとつの暗い林となるとき、 ― 心を結び合うふたりの子供のための砂浜となるとき、 ― 私たちの清らか…
  • 労働者 - Ouvriers
    おお、このなま暖かい二月の午前。季節はずれの「南風」が、こっけいなほど貧乏だった思い出を、ぼくたちの若い貧困をかき立てた。…
  • 「橋」 - Les Ponts
    水晶でできた灰色の空の広がり。たくさんの橋の描く奇妙なデッサン、こちらのいくつかの橋は真っ直ぐで、向こうのいくつかの橋はアーチ型で、その他の橋…
  • 都市 - Ville
    都市計画から同様、家々の家具と外観からもありふれた趣味はすべて回避されているので現代的と信じられている都市の、私はたいして不満のない蜻蛉のよ…
  • 轍(わだち) - Ornières
    右手では、夏の夜明けが公園のこの隅の木の葉と靄と物音を目覚めさせる、他方、左手の斜面は、そのすみれ色の陰の中に、湿った道の何千もの迅速な轍を…
  • 大都会(1) - Villes
    これが大都会だ! 夢幻のアレゲニー山地とレバノン山地が、とある国民のためにそびえ立った! 見えないレールと滑車の上を動く水晶と木の山小屋。銅の…
  • 放浪者 - Vagabonds
    惨めな兄貴だ! なんと多くの無残な徹夜か、あいつのおかげで! "おれはこの計画に熱心に身を入れていなかった。おれはあいつのひ弱さをもてあそんでい…
  • 大都会(2) - Villes
    現代的野蛮の最も巨大な構想をも超えた、公共のアクロポリス。このいつも灰色の空によって作られるくすんだ日光と、建物の帝国の輝きと、地面の永遠…
  • 眠れない夜 - Veillées
    これは光に照らされた休息だ、熱っぽくもなく、物憂さもなく、ベッドの上で、あるいは、草原で。
    これは激しくもなく、弱々しくもない…
  • 神秘の - Mystique
    傾斜地のあの斜面の上では、鋼とエメラルドの牧草地の中で、天使たちがウールの衣をひるがえしている。
    炎の牧場は丸い丘の頂まで跳ね上がる…
  • 夜明け - Aube
    ぼくは夏の夜明けを抱いた。
    宮殿の前では、まだ何も動いていなかった。水はよどんでいた。野営した影は森の道を去ってはいなかった。ぼくは歩…
  • 花たち - Fleurs
    黄金の階段席から、―絹のリボンと、グレーのレースと、緑のビロードと、太陽に当たってブロンズのように黒ずむ幾つもの水晶の円板の間で、 ―目と髪の毛…
  • 低俗な夜想曲 - Nocturne vulgaire
    風がひと吹き、仕切り壁にオペラ舞台のような穴をあけ、―腐食した屋根屋根の回転軸をかき回し、―暖炉の境を吹き散らし、―十字窓を陰らせる。―ブドウ…
  • マリーン - Marine
    銀と銅の耕作車が―
    鋼と銀の舳先が-
    泡を打ち、―
    茨の切り株を持ち上げる-…
  • 冬の祭 - Fête d'hiver
    立ち並ぶ喜歌劇の掘建て小屋の後では、滝が轟いている。メアンドル川のように曲がりくねった川沿いの遊歩道と果樹園の中では、回転花火が延長している、…
  • 苦悩 - Angoisse
    いつも打ち砕かれてきた野心を、「彼女」がおれに許すことができるのか、―安楽な結末が貧苦の年月を償えるのか、―成功の一日がおれたちを、宿命的無能力…
  • 首都の - Métropolitain
    インディゴの海峡からオシアンの海にまで、果物屋で食べ物を買う若く貧しい家族たちが待ちきれずに住みついた水晶の大通りが、ワインレッドの空に洗われ…
  • 野蛮な - Barbare
    日々と季節、そして人々と国々をはるか後にし、
    北極の海と花の絹の上に血を流している肉の旗;(海も花も存在しない。)…
  • フェアリー - Fairy
    エレーヌのために、星の沈黙の中の汚れのない影と冷ややかなきらめきが装飾的な樹液と共謀した。夏の激しい暑さは鳴かない鳥たちに託され、必要とされる…
  • II 戦争 - II Guerre
    子供の時、幾つかの空がおれの光学を磨いた:あらゆる性格がおれの人相に陰影を付けた。様々な現象が興奮した。―今、瞬間の永遠の屈折と数学の無限が…
  • 大安売り - Solde
    売り物だ、ユダヤ人も売ったことのない物、貴族も罪人も味わったことのない物、呪われた愛と大衆の地獄の正直さも知らない物:つまり、時も科学も認め…
  • 青春時代 - Jeunesse
    計算はわきへ、空の不可避な降下、それから思い出の訪問とリズムの上演が、住まいと頭と精神の世界を占領する。
    ―ある馬が炭疽ペストにえぐられて、…
  • 岬 - Promontoire
    黄金の曙とざわめく宵は、広大に形作るこの別荘と付属施設の前の沖合いに、ぼくたちの2本マストの帆船を見つけ、それは岬をエピロスとペロポネソス半島の…
  • 祈り - Dévotion
    ヴォランゲンのルイーズ・ヴァナン・修道女様へ:―北海に向いた彼女の青いコルネット(修道帽)。―難船した人々のために。…
  • 民主主義 - Démocratie
    "旗は汚らわしい風景へと進み、おれたちの方言が太鼓の音をかき消す。
    "中心地で、おれたちは最高にハレンチな売春を育てよう。筋の通った反乱は皆…
  • 並び舞台 - Scène
    古くさい「喜劇」は、それぞれの舞台の調べを追って、「恋の牧歌」を分ける:
    芝居小屋の立ち並ぶいくつかの大通り。
    葉の落ちた木々の下を野蛮な連中がう…
  • 歴史的な夕べ - Soir historique
    たとえば、我々の経済的恐怖感から身を引いたお人好しのツーリストがいるある夕べ、巨匠の手が草原のクラヴサンをいきいきと奏でている:王妃と愛妾が現…
  • ボトム - Bottom
    現実は、ぼくの高貴な性格にはひどく刺々しいのだが、―それにもかかわらず、ぼくは、天井の縁取りめがけて飛び立ち、夜会の影の中に翼を引きずる灰…
  • H - H
    すべての残虐性が、オルタンスの醜悪なしぐさを犯す。彼女の孤独はエロスの工学、彼女の倦怠は恋愛の力学。ある子供時代の監視の下で、彼女は、数多くの…
  • 運動 - Mouvement
    大河の滝の土手の上での横揺れの運動が、
    船尾の渦巻きが、
    傾斜路の迅速さが、…
  • 魔神 - Génie
    泡立つ冬にも、ざわめく夏にも、あの家を開け放ったのだから、彼は愛情と現在だ―飲物と食物を清めたのは彼だ―過ぎ去りゆく場所の魅惑と、立ち拝む場所…

Données Explication

  • 「イリュミナスィオン」解題
    題名『イリュミナスィオン』は、いくつかの解釈が可能なため、翻訳の場合は、そのままの読み「イリュミナシオン」を当てているものがほとんどです。私が「シ」をあえて「スィ」としたのは、知合いのフランス人(フランス語学校を経営し、教師もしている)から、濁って発音しないようにとしつこく注意されたためです。

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