イリュミナスィオン

Illuminations

Départ
出発

見飽きた。あの幻はあらゆる空気に見つかった。
聞き飽きた。町のざわめき、夜も、昼も、いつも。
知り飽きた。人生の停滞。―おお、「ざわめき」と「幻」だ!
新しい情愛と新しい騒音の中へ、出発!

フランス語テキスト

翻訳:門司 邦雄
掲載:2001年7月1日、2007年9月26日、2019年8月16日、
   2020年9月30日


「空気が読めない人」から「空気を読ませる人」に


 「出発 Départ 」は「人生 III 」と同じ筆跡であり、さらに「出発」のタイトルは小さな文字で書かれ、後で追加されたように見えるとガルニエ版の注に書かれています。内容的にも、「人生」と繋がって読めます。最初の行の「あらゆる空気に」の「に」は、原詩では「 à 」ですが、ガルニエ版では「 dans (中に)」からの書き換えと指摘されてます。他方、ブリュネル編のポショテク版とジャンコラ編のテクスチュエル版では、空の「 sous (下に)」から「 à 」に原稿が書き換えられていると指摘されています。
 しかし、手書き原稿写真版を調べてみると、空の「 dans (中に)」が書き直されているように見えました。自分の上にある空ではなく、自分の周囲にある「空気」という意味に取りました。
 「聞き飽きた」は原文では「持ち飽きた( assez eu )」となっています。動詞に「持つ avoir 」が使われていて、「聞く entendre 」などが使われていないのは音の関係でしょう。「夜も、昼も」の「昼も」も、au soleil つまり「日向に」になっています。これも「夜」の sior と、s 音をあわせるためだと思います。なお、最後の「音」は bruit であり、音楽的ではない騒音を意味しています。

 出発( Départ )の空気( les airs )から、「空気が読めない人」を思い出した。「空気が読めない」安倍晋三が、「空気を読ませる」総裁と首相に返り咲いた。「鬱苦しい日本」の始まりだった。安倍+黒田が言ったアベノミクスが始まった。ぼくはアベノミクスには反対だったし、もちろんNISAにも興味を持たなかった。年上の小企業の社長と,角川の文学賞を受賞した友人が、これからアベノミクスで景気が良くなると言ったのが忘れられない。社長は今では消息不明、友人はおそらくフクイチの被曝が原因で死亡した。
 「空気が読めない」から「空気を読ませる」に……これが日本の空気( les airs )、メディアの空気( les airs )、国民の空気( les airs )なのだろう。

解読:門司 邦雄
掲載:2001年7月1日、2007年9月26日、2019年8月16日、2020年9月30日

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