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ランボー イリュミナスィオン

Veillées

眠らぬ夜

I

 それは光に照らされた休息だ、熱もない、物憂さもない、ベッドの上で、あるいは、草原で。
これは激しくもなく、弱々しくもない友だ。友。
これはうるさくもなく、うるさくもされない恋人だ。恋人。
ぜんぜん探さなかった空と世界だ。人生だ!
―  あれは、こんなことだったのか?
―  そして夢が冷めてゆく。

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II

 照明が建物の支柱に戻ってくる。ありきたりな装飾の、広間のふたつの端から、調和のとれた立面が合わさる。眠らぬ男の前の壁は、帯状の浮き彫りと大気層と地質変動の心理的な連続だ。 ― あらゆる姿のあらゆる性格の存在を伴う感情的な群の強烈で迅速な夢。

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III

 眠らぬ夜のランプと絨毯は、夜、船体に沿って、三等船室の周りでも、波の音を立てる。
眠らぬ夜の海、アメリの乳房のようだ。
中ほどまでの高さの壁布は、エメラルド色に染められたレースの雑木林、そこに眠らぬ夜のキジバトたちが飛び込む。

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黒い暖炉の板、砂浜には現実の太陽がいくつも、ああ! 魔法の井戸だ、だが、今度は夜明けの眺めがひとつだけ。

フランス語テキスト

翻訳掲載:2002年9月30日


醒めた夢

 この詩のタイトル「眠らぬ夜 Veillees (複数)」は、夕食後から寝るまでの夜の時間という意味の他に、通夜、徹夜という意味もあります。原稿は、I と II で1セットで、III は、始めは単数で「眠らぬ夜 Veillee 」とタイトルが付けられた詩をⅢに変更しました。つまり、後でまとめられたと考えられます。
 この詩は、どの部も何が書かれているのかはっきりとは分かりません。ハシッシュ(大麻)の幻覚を書いた詩とよく解説されています。
 I の詩について。これは、英語で言えば、「イット イズ ア ペン」の文体が使われていて、「「眠らない夜」は、熱もない、物憂くもない、光に照らされた休息だ…」という意味の言葉ではじまり、次の2文が同じスタイルで続きます。この2文の「それ」は、彼、ランボーの側で眠っている人のことを言っています。「これは激しくもなく、弱々しくもないおれの友なのだ。友とはこんなものだ。」という意味なのでしょう。同じように「恋人」あるいは「愛しい人」の繰り返しがあります。このC'estの文体は、ヴェルレーヌの「言葉のない恋歌」の「忘れられたアリエッタ I 「(これは…)」と同じスタイルの詩です。この「忘れられたアリエッタ」の「III」は、上田敏の名訳「巷に雨…」で有名な詩です。さらに、ヴェルレーヌの「(これは…)」の1行目には「物憂い langouruese (形容詞)」、ランボーの1行目には「憂鬱 langueur (名詞)」が用いられていて、類似しています。ここでは、あえて同じ「物憂い」という訳にしました。ヴェルレーヌの詩は1872年5月に「ラ・ルネサンス」 La Renaissance, journal litteraire et artistique に掲載されました。このことから、おそらくヴェルレーヌの詩が先に書かれ、ランボーのこの詩はヴェルレーヌへのレスポエムではないかと思います。ここでは、文字通り恋人たちの夢は冷めて行きます。
 II の詩は、室内での夜明かしの情景ですが、幻覚的で具体的なシーンは断定できません。照明は、夜明けの光ととる説もありますが、わたしはⅠと同じランプか何か、人工の照明ではないかと思います。この節は難しい用語が使われています。たとえば、「建物 batisse 」は、大型の建造物という意味があります。石組という意味もあるようです。しかし、ここでは何を意味しているのか分かりません。「立面 elevations 」は、正確には「立面図」という意味です。しかし、英語では、建物、たとえば教会の高さの意味にも使われます。以前、仏仏か仏英の辞書に尖形アーチのある教会の壁の絵がありましたが、出典名を忘れてしまいました。分かりやすいように「立面」としました。「帯状の浮き彫り frises 」は、フリーズ(英語 frize )で、古代建築、たとえばギリシアの神殿とか、円柱に支えられた建造物で屋根の下の部分にある帯状の装飾です。この行は、いったん上に上がった視線が天井の下から壁に下りてくるように書かれています。しかし、ランボーがイメージした映像は、はっきりとは分かりません。
 III の詩は、上のふたつの詩とは別に書かれたものと推定されます。「三等船室 steerage 」は英語の操舵装置からきた言葉で、その側の三等船室を指すようになりました。船尾の部分です。なお、ここは始めは sur le pont 、つまり「甲板の上で」と書かれていました。アメリが実在の人物かは分かりません。音のイメージで選ばれた名前かも知れません。アメリは仰向けに寝ているのでしょう。このイメージは実際の舟での体験を幻覚体験の中で再現したものと思われます。この後は、幻覚的イメージが続きます。そして、最後には夜明けとなって、幻覚が消えるようです。

解説掲載:2002年9月30日

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