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ランボー イリュミナスィオン

Antique

古代の

 牧神の優美な息子よ! 小さな花々とブドウやスグリの実に飾られたおまえの額のそばで、おまえの眼、精巧な玉がうごめく。酒の澱が茶色に染み付いたおまえの頬がくぼむ。おまえの牙がキラリと光る。おまえの胸はシタールに似て、余韻はおまえのブロンドの腕の中をめぐる。おまえの心臓は、二重の性の眠るこの腹の中で鼓動する。夜が来たら、さまよい歩け、この腿を、この二番目の腿を、この左の脚を、ゆっくり動かしながら。
   
フランス語テキスト

翻訳掲載:2001年7月1日


牧神の息子

 この詩と次の詩「美しくあること」は1枚の原稿にまとめて書かれています。このことから、近い時期の作品、あるいは共通のテーマ性を持つと考えることもできます。
 原詩のタイトル Antique は、しばしば「古代」と意訳されています。形容詞として「古代の」という意味になります。また、いわゆるアンティーク、つまり古代美術品という名詞とも考えられます。私は、古代の(神)という形容詞としてランボーがタイトルにしたのではないかと考えました。形容詞の修飾している言葉の実体を捜すことが、この詩の鍵なのでしょう。なお、「ブドウやスグリ」と訳した言葉はbaieは「漿果(しょうか)」と訳されますが、分かりにくいので「ブドウやスグリ」と訳しました。酒の原料です。
 さて、まず最初の「牧神(パン)」ですが、ギリシア神話の半獣神。上半身は老人で、山羊の脚と角を持っています。牧羊をつかさどる神であり、笛(syrinks)を吹きます。突然現れて人を脅かすとされ、パニックの語源になっています。しかし、ここでは「牧神の息子」であり、牧神そのものではないようです。それでは、この息子、つまりタイトルの「古代の」と思われるものは何でしょうか。高畠正明は、この「牧神の息子」はヴェルレーヌと捉えています。そう考えると、「酒の澱が茶色に染み付いた」イコール酒びたりであり、ヴェルレーヌの写真や肖像には牧神を思わせる風貌があります。そして、「二重の性」は、文字通り両刀使いであったヴェルレーヌにぴったりの表現と取れます。牧神の息子は牧神より若く、性的欲望も強いのでしょうか。古代の壺に男性器を勃起させた牧神が男根像(プリアポスの像)とともに羊飼いを追いかけている絵が描かれているのを見ました(注)。ランボーは性的に放縦であった古代の神話の神々をイメージしてこの詩を書いたように思えます。初期詩編の「一なるものを信じる…(太陽と肉体)」には「ぼくは古代の青春の時を懐かしむ/好色な「半獣神」の時を、獣じみた牧神の時を、」と書かれています。

注) この写真は リン・ハント編、正岡和恵・末廣 幹・吉原ゆかり訳「ポルノグラフィの発明」(ありな書房/2002年発行)の81ページに掲載されています。

ポルノグラフィの発明

補記) 外国人の場合、解読者の名前に称号等を付けないので、日本人の場合も「氏」等の敬称は省略させていただきます。ご了承ください。

解説掲載:2001年7月1日、2002年11月3日、2003年4月14日、2004年9月1日

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