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ボードレール

Je n'ai pas ...

(ぼくは…)

       (ぼくは忘れない…)
              シャルル・ボードレール

ぼくは忘れない、町はずれの、
小さいけれど静かな、白い家。
石膏の「ポモナの女神」と古ぼけたヴィーナスが
茂みの中に腕を隠していて、
夕暮れには、輝く大きな太陽が、
ガラス窓を煌かせ、窓越しに、
つつましいテーブルクロスやサージのカーテンに
大蝋燭の美しい輝きを投げかけながら、
不思議な空の中の大きな目のように、
ぼくたちの静かでゆっくりした夕食を見つめていた。

翻訳:2004, Parolemerde2001


固有名詞の説明
ポモナの女神は、ローマ神話の森の女神、果実の神
http://www.dutchbaroque.jp/vertum_txt.htm

 ボードレールの父は、彼が6歳の時に死にます。7歳の時に母は(後の)オーピック将軍と再婚します。この詩は、母が再婚する以前のボードールの幸せな子供時代の詩と言われています。あるいは、母と二人きりの短い時かも知れません。
この石膏のポモナ像は、上のサイトを参照すると、色の白い母のイメージなのではと思えてきます。「ぼくは忘れない」と訳しましたが、原文は否定の複合過去で、ぼくは忘れたことが無かった、です。つまり、この至福の時は、ボードレールの心から離れたことが無いという意味でしょう。
窓から覗いていた太陽は、亡くなった父なのでしょうか。ランボーの「思い出」という詩では、父は太陽、母は川として描かれています。「地獄での一季節」の「錯乱 Ⅱ 言葉の錬金術」の、「将軍よ、君の壊滅した城塞に旧い大砲が残っていたら、乾いた土の塊で、おれたちを砲撃してくれ。豪華な店のショーウィンドーを狙え! サロンにぶち込め! 町には土ぼこりを食らわせろ。ガーゴイルを錆びさせろ。閨房には、燃えるルビーの火薬を詰め込め…」という部分の「将軍 general」は太陽であり、同時に父、ランボー大尉(capitaine)のこととも言われています。
父あるいは義父が軍人であることは、ボードレール、ヴェルレーヌ、ランボーに共通であり、幼い頃の肉親の死去と再婚は、ボードレール、マラルメに共通しています。また、ランボーの父も、ランボーが5歳頃から完全に別離しています。詩人たちの世界観に、どこか共通の陰を作り出していると思われます。

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