初期詩編

Poésies

Mes petites amoureuses
ぼくの幼稚な恋人たち

涙の蒸留香水が
 キャベツグリーンの空を洗う:
涎をたらす萌える樹の下で、
 珍妙な月のように白い

泣きべそ丸く染み付いた
 お前らのゴム長靴、
膝あてを打ち鳴らせ、
 ぼくのブスども!

あの頃は、愛し合っていたっけ、
 青白ブスめ!
半熟卵とハコベを
 食べていたっけ!

ある晩、ぼくを詩人と褒めたっけ
 金髪ブスめ:
こっちへ来いよ、膝の上で
 鞭打ってやる;

おまえの髪油を吐いたんだぞ、
 黒髪ブスめ;
お前は頭突きで、
 ぼくのマンドリンを壊すだろう。

げっ! ぼくの唾が乾いて、
 赤毛ブスよ
お前の丸い乳房の溝で
 今でも悪臭を立てている!

おお ぼくの幼稚な恋人たちよ!
 ぼくはお前らが大嫌いだ!
醜いおっぱいに
 苦しい襤褸を被せろ!

ぼくの気持ちの古壷を
 踏みつけるんだ;
―だから、さぁ! 暫く、
 ぼくのバレリーナになるんだよ!…

お前らの肩甲骨が外れて、
 おお、ぼくの恋人達よ!
お前らのビッコの腰の星を、
 ぐるぐる回せ!

けれども、ぼくが詩にした
 羊の肩肉よ!
愛した後には、お前らの腰を
 壊してやる!

鬱陶しい星の寄せ集めども、
 隅に引っ込んでろ!
―お前らは、下劣なお節介を背負い込んで、
 神のところでくたばれ!
                  
泣きべそ丸く染み付いた
 珍妙な月の下で、
膝あてを打ち鳴らせ、
 ぼくのブスども!
              A.R.

フランス語テキスト

翻訳:門司 邦雄
掲載:2021年3月17日



訳注)
 ドムニーに宛てたランボーの見える者の手紙の手書き原稿では、全ての挿入詩の横に「何て詩( rimes )だ!」と書かれています。rime は、韻・韻律のことで、当時ランボーが、韻文詩の変革を考えていたことが判ります。

「ぼくの幼稚な恋人たち」:以前書かれたロマン主義の流れを受け継ぐ初期詩編を否定した詩。女の子の髪の毛の色・顔色を列挙する発想が、後の「母音」に引き継がれます。ランボーの手書き原稿では、挿入詩の中では、訂正もなくきれいに書かれています。
泣きべそ…:原詩 pialats は、泣く piallier からのランボーの造語。
ゴム長靴:原詩 caoutchoucs は、ゴム引きの長靴・レインコートの意味です。1853年にはフランスでゴム製の靴を作る工場が造られ、木靴に代わる靴として、ゴムの長靴が農民等に普及しました。
膝あて…:原詩では「打ち付け合わせろ」となっています。日本では手を叩き合う遊戯があるので、同様に解釈しました。
腰の星:女性器のイメージと思われます。初期詩編には、無題の「(星はバラ色に泣いた…)」という詩があます。

解読:門司 邦雄
掲載:2021年3月17日

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