初期詩編
Rêvé Pour l'hiver.
「xxxさん」に、
冬になったら、青いクッションの
バラ色の小さな客車に乗ろうね。
ぼくらは夢中さ。柔らかい隅っこは
どこでも熱いキスの巣さ。
君は目を閉じるんだ、夕闇の物影が、
黒い悪魔と黒い狼の手下の、
あの怖いお化けのしかめっ面が
窓ガラスから見えないように。
すると君のホッペがチクッとして…
かわいいキスが、気違いクモみたいに、
君の首を追いかける…
で、首をかしげて、ぼくに言うのさ、「見つけて!」って、
―それから、ぼくらはこの虫を探して過ごすんだ
―だって、虫はどんどん逃げるから…
車中にて、1870年10月7日
フランス語テキスト
翻訳:門司 邦雄
掲載:2002年11月18日
キスの巣
タイトルの「冬を夢見て」は、直訳すれば「冬のために夢を見た」となります。C. ジャンコラは、Pour が大文字であり、Pour hiver (冬のため、冬用)というタイトルでまず書かれ、次に「夢見た Reve (過去分詞)」を付けたと取っています。宇佐美斉は、Reve pour を …に理想的なという慣用句と取っています。つまり、reve は ideal (理想的、ふさわしい)という形容詞となります。「冬の楽しみ」と訳しています。私は、客車に乗りながら冬になったら… という夢想をしたという意味と考え、今までの翻訳タイトルにもある「夢見て」と訳しました。献辞は À *** Elle, となっています。Elle は彼女という代名詞ですが、具体的な彼女を指しているのかは分かりません。
この詩には、日付が入っています。ランボーは1870年10月に2回目の家出をしましたが、このときの汽車旅行中に書かれた詩とされます。ランボーは清書した詩をドムニーに渡しましたが( Recueil Demeny )、この詩は2冊目の詩帳( Second Cahier )に収められていました。普仏戦争が起こり、学校から解放され、新聞記者になろうとしていたランボーの、自由気ままで、お茶目でお洒落な印象さえ感じられる詩です。
解読:門司 邦雄
掲載:2002年11月18日、2003年7月10日
<< 谷間に眠る人 index 夕方5時、みどりの酒場にて >>